マチュ・ピチュ-アルトマヨの森奮闘記

青年海外協力隊2022年7次隊として、林業・森林保全分野でペルーに派遣されました。クスコ州のマチュピチュ歴史保護区で森林保全活動をしていましたが、情勢悪化に伴いサン・マルティン州のアルトマヨの森保護区に任地変更となりました。自分が将来過去を振り返るための備忘録も兼ねて、日々の活動をボチボチ綴っていこうと思ってます。時々暑苦しい文章になるかもしれませんので、ご承知おきください。

"土に根を下ろし、風と共に生きよう"

 

マチュピチュの”聖なる谷”にある村、Qoriwayrachina。ケチュア語で”金の風”を意味する。2年間私が過ごす村。


"土に根を下ろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春を歌おう。"

 

有名なジブリアニメ"天空の城ラピュタ"のセリフの抜粋です。私が2年間活動する場所、マチュピチュの遺跡は時に"天空の城"と呼ばれることもあります。そのマチュピチュ歴史保護区内の"聖なる谷"沿いに位置する村、Qoriwayrachina(クオリワイラチナ)にようやく来ることができました。2年間ここで青年海外協力隊林業・森林保全隊員として、植林・森林計画、マチュピチュ在来種の育苗、そして地域住民への啓発活動などを行っていきます。

 

村から1時間ほど山を登った”Waynaq’ente"にある育苗地。ここで、植林に用いるための在来種の苗を育てる。




マチュピチュは知っていても、Qoriwayrachinaを知る方はほとんどいないと思います。

現地語のケチュア語で"金の風"を意味するそうです。

かつては金が生産され豊かな街だったそうですが、今は金の生産はされておらず、マチュピチュ歴史保護区内にありながら観光客にとっては交通アクセスが良いとは言えないため観光業で潤っているわけではなく、さらに他の経済基盤となる産業も特にありません。

 

少し歩くだけで、いろんな遺跡が見られる村。太古から蓄積された叡智に触れられる。



 

この村の中で小規模で農業や畜産をしている方はいますが、あくまで村内での消費が目的であり他の街に流通はしていません。そもそも土壌もあまり肥沃ではないそうです。そのため、焼畑農業が行われることもありその火が燃え広がって森林火災につながることもあるそうです。実は今回3日間Qoriwayrachinaのコントロールポストを拠点に活動しましたが、初日に大規模な森林火災が発生しました。今回の原因は焼畑農業ではなく、雷によるものでしたが、火は広範囲に燃え広がり草木や動物の生息地を焼き払いました。マチュピチュ歴史保護区内の他のコントロールポストからもパークレンジャーが集結し消火活動に取り掛かりましたが現場に行くまでに4〜5時間を要し、消火活動も容易ではありません。

 

9月21日の落雷が原因で発生した森林火災。多くの自然資源の損失を招く。



 

今回は私にとって、保護区内で初めての任務だったということもあって危険性を加味して、私はコントロールポストに残って無線連絡やレンジャーが戻ってきた際の食事の準備等を担いました。まだまだひよっこな上にスペイン語も流暢とは言えない中で、自分に何ができるのかをものすごく考えました。目の前に火災現場があって自分もそこで貢献したいという思いもありましたが、まずは草の根レベルのできることからと思い、地域の人や関係者の話を聞き、そして早朝3時に起きて男20人前の食事の準備をすることに徹しました。

 

早朝3時に起床して、20人前の朝食・昼食(お弁当)の準備。3人で役割分担しながら調理。



 

クスコ市内から運ばれてくる物資。村民みんなで協力して荷下ろし。ニトリに勤務していたころの搬入作業がここで活きた。



 

今回、色んな人から話を聞いてわかったことも沢山あります。

 

コントロールポストで毎日走り回る侵入者。村のアイドル。



 

まず、地域の住民と配属先のコントロールポストとの関係性が良好であること。多くの住民がすれ違い様に森林火災が大丈夫か、ということを心配していました。またかつてはコントロールポストが実施する植林活動に、雇用契約を結ぶ形で協力してくれていた人も多いそうです。そしてコントロールポストが管理する菜園ではレタスやキャベツ、パクチー、にんじん、玉ねぎ赤蕪など色んな種類の野菜を栽培しており、村人は1つ50センティモス(約15円くらい)の廉価で購入できるそうです。村人がポストの前を通り過ぎると必ず明るく挨拶を交わし、時には雑談が始まります。多くの村人が初めて見る日本人ボランティアに関心を持ってくれて、色んな話をしてくれました。

 

Qoriwayrachinaのコントロールポストのそばにある菜園。一部植林用の苗も育てている。きちんとした灌漑設備が整っており、収穫した野菜は私たちの食事になるだけでなく、安価で村民に販売している。



 

さらに村民の収入についてです。現在村ではマチュピチュ自治体主導でスポーツセンターの建設が進められており、村民の多くが男女問わずその建設現場で働いているそうです。しかし、雇用形態は日雇いで施工が完了する予定の1年後には彼らは職を失ってしまうことになるそうで、収入は安定していません。前述の通りアボカドを生産していたり、豚や牛を飼っていたり、養蜂をしていたりと、農業は行われていますが村内の需要を満たす程度でしかなく、安定した収入源とは言えなさそうです。森林を保全しながら、うまく資源を有効活用して彼らの生活の基盤となる産業を共に生み出す活動もしていきたいと考えています。

 

現在スポーツセンターの建設中の工事現場。岩や石が斜面から転がり落ちてくる環境で、性別問わず日中作業が行われている。工期は残り1年ほどの予定。



 

そして、都市部と比較して教育を受けるのが容易でないこと。村は50世帯ほどが暮らしているそうですが、54人の6歳〜12歳の児童が通う小学校が1つあるだけで、中学校(日本の中学校とは異なり5年課程で13〜17歳までが通う)に進学するためには都市部のクスコ(電車で約90キロの距離)かマチュピチュ遺跡のあるマチュピチュ村(電車で約30キロの距離)に通う必要があるそうです。教育機会に制限があり、学習意欲が高くても、お金も時間もかかってしまう進学ができる保証はありません。今回3日目に小学校の校外学習に引率しました。自然を楽しみながら片道1時間の山道を一緒に歩いて、遺跡を見学し、少しばかりゴミを捨てないことやこの村の自然資源の話をして、昼食を取ってレクリエーションをするというものでした。まだまだ家庭レベルでゴミの分別が出来ているわけではなく、先生方からは日本のゴミの分別を教えてほしいとの声も上がっていました。学校に訪問した時から子供たちは初めて見る日本人に大興奮で、道中も日本のことを尋ねてきたり、一緒に歩きたいからと手を繋いできたりと対応に大忙しでした。さらに遺跡では、建造物よりも私の周りに子供だけでなく先生も集まり、まるで自分がモニュメントのようになっていました。。。今回の遠足の引率を通して、彼らの純粋さに触れ、彼らが各々望む未来を手に入れられることを、心の底から願いました。そしてそれを実現する手伝いを、草の根レベルで2年間通しておこなっていくと心に誓いました。

 

小学校の校外学習の引率。子供たちに自然の大切さを同僚と伝える。



目的地の遺跡で、みんなで持ってきた飲み物やお昼ご飯を広げる。もちろん帰る前に、昼食のゴミだけでなく遺跡内の落ちているゴミをみんなで拾って帰る。



みんなで記念撮影。村の子どもたちの純朴さと笑顔を長きにわたって守り続けるための活動を2年間行っていきたい。



 

"土に根を下ろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春を歌おう。"

常に人で賑わう"天空の城"の近く。

"金の風"が吹く"聖なる谷"にある小さな村。

ここでは豊かな自然と純粋な人たちが静かに暮らしています。日本の価値観を押し付けることなく、日本の物差しで測ることもなく、彼らと共に、そして豊かなな自然と共に、そして自分も彼らの一部となり、彼らの土壌で2年間という短くも長くもない時間を一緒に生きていきこう。

そう強く思います。

 

 

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